ジャンプスクエア 原作太田垣康男・漫画村田雄介『曇天・プリズム・ソーラーカー』 光と闇とソーラーカー

月刊誌、ジャンプスクエア10月号にして
一部のマニア垂涎のコンビによる新連載
『曇天・プリズム・ソーラーカー』が始まりました。
原作・太田垣康男、漫画・村田雄介。
特に僕は村田雄介先生の絵に心奪われているもので、
この組み合わせをおおいに喜んでいます。

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村田雄介先生と言えば、勿論?
週刊少年ジャンプで連載していたアメリカンフットボール漫画
『アイシールド21』の作者。
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集英社
村田 雄介

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※巨深ポセイドン戦~神龍寺ナーガ戦あたりが白眉!

作品自体の出来もさることながら、連載の中で劇的に進化した
彼の絵は、観ているだけで心踊るものでした。
ただ、あくまで『アイシールド21』は
原作者・稲垣理一郎先生との共同作業。
連載終了後、村田先生自身の持つ「絵力」に期待してか
様々な可能性を模索する時期が続きましたが、いまいち結果が出なかった。

BLUST!(2009年『週刊少年ジャンプ』22・23合併号、51p)
マインズ(2010年『週刊少年ジャンプ』29号、47p)


週刊少年ジャンプで、2度ほど読み切りを執筆。
『BLUST!』も『マインズ』も、単純に言えば
かっこいい男がかっこいいアクションをする話。
乗り物や機械に寄った描写が、いかにも鳥山明の系譜を感じさせはしたものの
ただ、その先に何かがあるか、というと…

『BLUST!』のギミックは発展性のないものでしたし
『マインズ』の先輩と後輩、男同士の友情というものも
後輩を女性にしなかった所に拘りを感じるものの
女性受けするような形でもなく、先輩視点からの
「男のロマン」を直に描いただけで
対象読者不在、という印象が残りました。

同じ週刊少年ジャンプで不定期連載していた
『ヘタッピマンガ研究所』などを読んでいても
漫画にかける情熱、求道的精神は疑いないのに
彼の才能の多くは、画に特化しており
それが村田先生を色々苦しめているようにも見受けられます。
…別にそれは悪い事でも、欠点でもないんですけどね。
補ってあまりあるほど、彼の絵は魅力的なのだから。

なんなら稲垣先生と長期的なタッグを組んでもいいのでは?
とにかく動きのある村田先生の絵が見たい!と思っていました。
そんな中登場したのが、本作『曇天・プリズム・ソーラーカー』。
原作を担当するのは『MOONLIGHT MILE』の太田垣康男先生。
鳥山先生とは違いますが、マシンとメカの世代の人である事が
この組み合わせに繋がったのでしょうか?
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太田垣 康男

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僕は不勉強にも、彼の漫画はこの作品しか読んだ事がありませんが
光と闇、虚と実、身も蓋もない現実と希望あふれるロマンと情感、
そういった一見対立概念に思えるものを真摯に見つめ、表裏を見出す。
互いに組み合わさって一を為す、というスタンス…
そういった透徹とした視点を感じさせる作品です。
今回の作品は、別に『MOONLIGHT MILE』のように宇宙には出ないし
話の筋立てもずっとシンプル(な、はず)。
ただし、基本的なスタンスは上記と通じるものがあります。

金田翔太は、幼い時交通事故で父親を亡くした。
母は住み込みで旅館に勤め、彼自身は叔父の工場で勤務しながら
いつか大学進学の為の費用を手にしたいと考えている。
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そんな時に、矢崎純子をはじめとした
大学のソーラープロジェクトチームが、
金田の住みこむ倉庫を借り作業を始める事に。
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金田も会社の宣伝の為という名目、
更には会社の経営状況の悪化という事実もあって、
仕事を半減、週の半分を彼らと共にするようにと言われる。
割り切れない金田は、ソーラーカーに関わっていくのだろうか。


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これまで村田先生が主戦場としてきた週刊少年漫画の描き方なら
第一話の「掴み」が大切で、何らかの見せ場を必要とする所。
しかしここは月刊、胎動と言える一話に終始しており
ソーラーカーは動かない、
金田と純子の間の理解の可能性も見えてこない。
ただ、だからといって魅力がないわけではない。
スケジュールに余裕がある中での
凝り性とも思える村田先生の筆致は活き活きとしていますし
また、細かい演出も効いている、とても読み応えのある内容でした。

今回の話を通じて存在するのは、主人公・金田の鬱屈。
それが作中では、光と影という演出によって念押しされています。
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夜の闇、部屋の闇、
いずれも光届かぬ場にあって、光の中の矢崎を、学生を見つめる金田という絵は
当然意識して組んだ、光と闇の対比というものでしょう。
これは金田自身がそう感じているという事で、
「父親を失い、学費の為に身を粉にして働く」自分の物語の中から見れば
学生たちの道楽とも思えるソーラーカー云々は、眩しい、苛立の対象になる。

ただ、太田垣康男先生の『MOONLIGHT MILE』がそうであったように
この世の中は清濁交わった所にあるもので、
どちらかからの一方的な不幸意識や道楽への軽蔑などは
その一部しか捉えてはいない。
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純子が怒ったのも、社会的に恵まれていないとされている側が
一方的に恵まれているとされる側を糾弾する、その視点に対してですし
実際、おそらくは彼女にも彼女の物語が存在する。
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冒頭の導入シーン、ここでは「光と闇」が
車の「中と外」として描かれているのにも注目したいところです。
中…当事者たる金田は、親をまさに失い、その中で完結しているが
世界は単一色で、どこかだけを区切れるものではなく
一方で外…それを見つめるもの達にも様々な影響を与える事になる。

明言されてはいないけれど、あまり効果のないフェイクでもない限り
この時事故を観ていた少女は純子でしょうから
事故は金田の心に深い傷を与え、
(傷を負っていい立場とはいえ)俺は不幸だ、のスパイラルに陥る中
一方で同じ事から別の角度で別の何かを得る人もいて、
その繰り返しで世界は成り立っている。

純子はこの事件をきっかけに、安全なソーラーカーへの夢を抱いたのでしょうか?
そのあたりは全く想像の域を出ませんが、しかし
そうやって世界は繋がりを持ち、どこにあっても物語を駆動させるのは自分の意思。
金田の「大学進学」が、現実逃避とまでは言いませんし
今の自分に向きあって、技術を磨く事こそが
唯一の正解とまでは言うつもりはない。
ただ、自分だけが闇の中と思い、光を妬み、嫉む感覚では
どこまで言っても光の中に出る事はできないし、

そしてソーラーカーは、
光のない所では動かない。

極めてわかりやすい道具立てです。
しかし、だからダメという理屈が成り立つわけもなし。
テーマの為の必要充分な配置と設定があり、
それを最大限に活かす、力と熱意のある作家の絵がある。
とても楽しみな連載です。
自身の連載では膨張の一途を辿る
太田垣康男先生の、こじんまりとした構造での奇を衒わない主張、
村田雄介先生の、久々連載での全力の筆致を楽しみにしましょう。
『迷い猫オーバーラン!』が終わっても、ジャンプスクエアはこれからだ!
来月から代わりに『Toらぶる』のスピンオフが来るし!←結局萌え漫画所望?

余談

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中学高校と学校が遠かったせいで
翔太くんは毎日
往復30kmの距離を自転車で通学していました


交通事故へのトラウマ、
自動車恐怖意識が生んだ、彼の自転車通学の日々。
ここに『アイシールド21』の重要な要素である
主人公・小早川瀬那がすごかった理由=ずっとパシリをしていたから、
に通じるものを感じるのは僕だけではないでしょう。

本人にとっては負の理由によって、否応なく生まれた何かが
その後の自分を照らす光になりうる。
まあ、ソーラーカーのドライバーにそれらの能力が必要とも思いませんが
当然その体力の下地は、今の工場での仕事にも活きているでしょうし
これからも「体力」の根拠として、やはり役に立つかもしれません。
それは、最もわかりやすい形での
「良い事も悪い事も含め、続いていく人生への肯定」の証。

この作品が鳥人間コンテストの漫画なら、最高にわかりやすいんだけどな(笑)


ジャンプ SQ. (スクエア) 2010年 10月号 [雑誌]
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2010-09-04

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