週刊少年チャンピオン『弱虫ペダル』オタクが主人公であることの、究極の意味

週刊少年チャンピオンにおける、新興エースの座を
がっちり射止めた感のある『弱虫ペダル』。
今回に限らずずうっと素晴らしい連載の『ペダル」ながら、
RIDE95「百人目」がまた、更に素晴らしかった。
ここまで110回転のケイデンス(回転数)で、
既に十分凄いのに、
今回は更に30回転上乗せしてきた、
とでも言うような…ってそれ、本編まんまだ。

画像


サブタイトル「百人目」というのが
既にもう、お見事。
編集煽りは『坂道VS御堂筋!!』ですし
実際、この一話を一言で説明して、と言われたら
「坂道が御堂筋と戦う回」と、誰もが言うでしょう。
そしてそれは、間違っていない。
けれども、サブタイトルは「VS御堂筋」といった
御堂筋を強調するものにはならない。
何故か?
それは、坂道が実質「御堂筋と戦っていないから」。

御堂筋は、とても良いキャラクターです。
もう、存在自体が気持ち悪いし
気持ち悪い奴がキモキモいいながらキモい挙動で
キモく歯をカチカチ鳴らすなんて、キモ過ぎて最高です。
↑何を言っているかわからない
画像

彼は、この一話で強烈にキャラクターを立てているし
それは敵役演出として、何一つ瑕疵はない。
ただ、坂道にとっての“今の”御堂筋は
「100人目」を越えてこない。
勿論、途中ぞくぞくしながら御堂筋の凄みを感じてはいるけれど
彼のモチベーションは「御堂筋を倒す」ことには向かない。
それは、坂道の目的が「チームメイトに追いつくこと」からブレず
その目的から観れば、御堂筋だろうが誰だろうが
「百人目」でしかないから、なのですよね。
だからこの回は、表面的には坂道VS御堂筋ではあるけれど
本質的な意味では、御堂筋と戦ってはいない。
御堂筋もまた、最後まで坂道を追い、潰すというのは
「キモい」熱さでしょうから、それを行わない。
百人目であること>御堂筋であること。
その徹底を宣言するサブタイトル。
ここがもう、素晴らしい。

それにしても、坂道は何故そこまで漕げるのでしょう?
坂道が元々凄いヤツだから?
それはその通り、確かに坂道の能力は凄い。
…でも敢えて言うと、それはこの漫画の「メイン」ではないですよね。
坂道が能力的に凄いというのは、漫画というファンタジーなりの
読者への説得力の為に存在しているだけ。
本当の坂道の凄さは何か、と言えば

モチベーション。

「足がちぎれるまで回す」その決意は美しいが
それを実行にうつせる人が、どれだけいるでしょうか。
今回の連載で言うなら、110回転までもっていくのは能力。
力なきものは、それ自体行えない。
しかし、ソレを更に30回転上げる。
勿論、根拠となる能力も必要ではあるけれど
そこに持っていこうという発想と実行力こそが、何より驚異的で、
他の人と坂道を分かつ部分と言えるでしょう。
その、坂道のモチベーションの源は何か、というと
100%、コレのみというのがまた凄い。

画像

「皆のために」

この目的、「足りない」と感じる人もいるのではないでしょうか?
モチベーションを自らの内から引っ張り出せず、
他者に求めているようにも見える。
それは、純度の高い孤高の天才像からはかけ離れるもので
同じ少年自転車漫画の最高峰『シャカリキ!』を読み込んだ人には
一つの弱みにすら映るものです。
この程度のモチベーションでは、個の内から湧き出る
得体の知れないモチベーションには、敵わないのではないか…と。
シャカリキ! (1) (小学館文庫 (そB-12))
小学館
曽田 正人

ユーザレビュー:
自転車ロードレースは ...
シャカリキに自転車で ...
フツーじゃないのが、 ...
amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by ウェブリブログ商品ポータルで情報を見る


でも、これこそがこの作品の素晴らしい所。
役割を与えられる事、それに応える事という
「普通の人」にとっては
当然すぎて、素通りしてしまうような部分を
思いっきり拾い上げた、その視点こそが
『弱虫ペダル』を『弱虫ペダル』たらしめている。
僕は『弱虫ペダル』は、本当の意味での
数少ない「オタクの漫画」なのだと思っています。
それはオタライフを描くかどうか、といった外面の話ではなく
オタクの内的モチベーションまで
しっかり見つめた作品だから、です。

『弱虫ペダル』の主人公、小野田坂道はオタク少年。
毎日遠く離れた秋葉原に、ママチャリで行き来する日々は
現在の坂道の、ロードレーサーとしての能力の源になっている。
これは、例えば『はじめの一歩』の一歩にとっての釣り船、
『アイシールド21』のセナにとってのパシリに相当する
「ヘタレなりに凄くなれる根拠」であると同時に
昨今増えている「オタクって凄いんだ」のテーマでもある。
オタクが、趣味に向けるそのエネルギーを
前向きに活用すれば、凄い力になる…といったような
オタク賛歌、応援歌。
最近ではオリジナルアニメ『東のエデン』において、
主人公・滝沢が
誘拐したニート達の知恵を借りてミサイルを撃墜する、という描写が
典型的な「お前ら、やればできるんじゃね」のテーマでした。
※『サマーウォーズ』にも少しあったなあ…

でも。

「直列につなげば凄い力を発揮するかも」って、
言葉を悪くすれば「上から目線」といいますか
マンパワーとしてのオタ、ニートの可能性は肯定しているけれど
個別のオタクならオタク、ニートならニートを
「人」として見ているようには、僕には思えなかった。
それはもう、作り手の想像力、或いは経験の問題で
「そういう視点のない人」には、作りようがないのかな、
この視点で終わってしまうのも、仕方ないのかな…と、思うのですが。
その点で『弱虫ペダル』はムチャクチャに卑近で、
ムチャクチャに素晴らしい。
この漫画は、昨今の
「オタクもやればできる」という漠とした理想論に留まらず
その「やれば」に彼らが至るために
必要なものって、一体何なのだろうか?
…という部分から、個人の視点でバッチリ捉えている。
その辺が「オタク論」的な目線から脱せない物語との、決定的な差異で。
そして、それこそが「皆のため」だ、と
この漫画は言っているのですね。

先ほど、坂道はオタクだ、と言いました。
しかし本当は、それだけでは不足していて
彼は「1人オタク」でした。
ただのオタクというだけでは少し説明が足りなくて
同好の士を持つでもなく、ただ1人でオタク道を邁進していた。
ここは完全な推測ですが、だから坂道は
街そのものが「オタク」としての空気を纏い
入ってしまえば、自分も1人の「秋葉原のオタク」になる
秋葉原へのいわゆる“聖地巡礼”を
毎日欠かさず行っていたのではないでしょうか。
あの街は、1人オタクに仮初の安心感を与えてくれる。

ここで仲間がいると、オタクはオタクなりに
コミュニティを形成できるのですが(『げんしけん』)
しかし、小野田坂道という名の1人のオタクは
そういった「とりあえず」もなかった。
そうすると、人はどうなるか?

「コミットすること」への強烈な渇望が生まれる。

誰かの為の自分でありたい、
誰かに必要とされる何かが欲しい、
それがあるなら、全てを捧げてでも加わりたい。

坂道が誰よりも深く持つ情動で、同時に
『弱ペダ』がどのマンガより「オタクマンガ」してるのは
ここではないしょうか。
坂道は、オタクたちの「コミットに対しての、希求の権化」。
だから、化け物のように映る一方で、
その根っこを理解できる人には、坂道の気持ちは
手に取るようにわかる。
自分の「それ」を拡大すればいいだけで
きっとそれは、多くのオタクが経験したことがある。
いわんやニートをや、です。

そんな少年が
自分の積み上げてきた根拠(ママチャリ)でもって
灼熱の志をもった仲間達に
「その能力こそがチームの為に必要」と言われたら…
そんなの、「自転車が好き」なんてメじゃありません。
…いや、坂道も勿論、自転車が好きなのでしょう。
ただやっぱり、今描かれているのは
同じベクトルを向いた集団に自らが求められる、という事への
これまでの人生も踏まえての、魂の底からの喜び。
これに尽きる。
そして、この想いがあるからこそ
小野田坂道は、回転数を限界から30上げられる。
本気で、足がちぎれるまで回し続ける事ができる。
画像

数多く、「オタクを描くマンガ」はありますが
本当の意味で、ここまで等身大に
「オタク」を捉えたマンガは、そんなにない。
「皆の為」という名の、「自分の為」。
この世界に、自分の形を固定してくれる存在たち。
彼らが先にいるなら、そりゃあ、足がちぎれるまで漕ぎます。
「役割の為に頑張る」という、
天才達の世界からは弾かれそうな、「弱い」目的を
これもまた、現代においては
灼熱の、燃える物語なのだ、と宣言してみせた
『弱虫ペダル』。
このケイデンス(回転数)、まだまだ落ちそうにありません。

あとは、今週の素晴らしいところ3つ。
・脱・量産型
画像

主人公の成長に対し、敵が認める発言を行う、というのは
カタルシスを与える為にも、重要な部分。
その点で、御堂筋のザク呼ばわり
→量産型やないなァ…!は
素晴らしいセリフ運びでした。
ガンダムの引用というと、トミノ節の引用ばかりな中で
そのもの、MSという名の情報を圧縮・活用してみせた
この距離感も見事でした。

やったぜ、坂道!お前は今、ギャンだ!!

もうちょっと上ですか、ジョニー・ライデン専用ザクくらいですか。
(それ、上になったのか?)

・クライマーは繋がっている

坂道を最初に発見するのが、巻島である…というのが
やっぱり素晴らしいです。
僕は、世界を峻別する、という行為にときめく体質のようなのですが
坂道と絆をつむいできたという部分では、
同級生の今泉や鳴子の方が
時間も、エピソードも、絶対に上なのに
でも、坂道の復帰を誰より信じるのも、最初に見つけるのも
同じクライマーである、巻島先輩であるという事。
それはこれまでも、レーサーではないマネージャーに
試合中、いいセリフを吐かせなかったり。
同じスプリンター同士で、鳴子と田所先輩
(そして、おそらくは寒咲先輩も)だけの世界を作り上げていたり。
その「『弱虫ペダル』の厳しさ」が現れていて、胸キュンです。

また、巻島先輩の「3分」は
坂道の140ケインデスをも含めての3分キッカリである、という所に
(勿論「3分」に論理的な根拠はなかったでしょうが)
坂道の力を過大評価も過小評価もしない、
そのまま彼の限界を信じた、美しさが出ていてここもシビれた。

・構成における、今週の妙

坂道が落車したその時から、読者の中では
「早期復帰」を求める読み方が主流だったでしょう。
ここが淀みないほど、熱は逃げない。
かといって落車→翌週復帰、では
溜めがなさすぎて胡散臭く、バランスが難しいのですが…
巻島が「3分」を予言した時、その期待はピークに達した。
とはいえ漫画というのは、作中の3分間を
何ヶ月もかけて描ける世界ですから
予断は許さなかった。
そこで若干読者にとってエアポケット状態だった
御堂筋を、先週ラストで登場させた。
こうなると、一回読む側は
意識的にテンションを落として「諦める」んですよね。

「ああ、なるほど、御堂筋がいたか。
本当は今週の時点で追いつくくらいで最高だったけど
御堂筋というワイルドカードを出してきたなら
ここでひと勝負しても、仕方ないかな。長くならなきゃいいや」

くらいの、妥協というか…ワンクッションが入る。
→そうしたら、次の週で追いついた!!
この、「御堂筋フェイント」って
構成の魔術師状態で、凄いですよ。
少なくとも僕は、御堂筋が出た瞬間
2週3週は覚悟しましたので、その諦めの後で
先週の今週で、追いつき!を描かれた事には
興奮通り越して、過呼吸起こしそうになりました。
それは、先週時点で追いつく事を上回る興奮で
急がば回れというのか、なんというのか…
最適解と思えたものを回避してしまい、しかも
不満を漏らす前に更なる最適解を提示されてしまった時の
心地良い敗北感とでも言うのかなぁ…
なんて高度なフェイントなのでしょう。
週刊連載というもののダイナミズムを、完全に掌握していないと
こんな凄いことは、そうそうできません。

これは単行本で追っかけるのは、勿体ない!
今もっとも週刊連載で追いたい作品、
それが『弱虫ペダル』なのです。
坂道のように、口ずさみながら読みましょう。
ヒーメヒメヒメ魚の子ー♪←メロディ間違ってる

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック

  • 秋葉原メイドちゃんねる 風俗情報

    Excerpt: 秋葉原メイドちゃんねる業種 :デリ&ホテヘル地域 :秋葉原・神田営業時間 :12:00 ~ 5:00Fスタ見た!で :入会金無料にてご案内!TEL :03-5638-2252当店自慢の.. Weblog: 風俗情報 racked: 2010-01-26 14:07