『シュガーダーク』危殆で安穏、不幸で幸福な2人の世界

2010年は『ラノベ』と『抱き枕』に踏み込むぞ!
と考えていました。(抱き枕?)
しかし先日、東京に行く用事があり、
秋葉原に立ち寄った際、数日差なら
敢えて後回しにする必要もあるまい!適当に買ってみよう!と
数冊表紙やタイトル、本屋での扱い等からヤマカン購入。

ネットには、素晴らしくこちらにも造詣の深い方もおり、
聞いてみようか、とも考えたのですが…
最初ですからね。
西尾維新作品などは読んでいるとはいえ
こう、主観的ながら初の
「ラノベを買おうとしてラノベを買う」機会ですから
失敗もまた1つの思い出になるだろう、と敢えて聞かず。
…今後は聞きまくろうと思います(笑);。

とりあえずそのうち一冊で、最初に読んだ『シュガーダーク』です。
ネタバレするよー、超するよー。
シュガーダーク 埋められた闇と少女 (角川スニーカー文庫)
角川書店(角川グループパブリッシング)
新井 円侍

ユーザレビュー:
評価が分かれるものだ ...
角川の戦略確かに面白 ...
あんまり角川スニーカ ...
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なんといっても帯が


画像

「第14回スニーカー大賞《大賞》
 『涼宮ハルヒの憂鬱』以来6年ぶり!
 《大賞》受賞作が満を持してデビュー!」(金色帯)


ですからね…。
とりあえず読んでみようか、と思わせるには十分。
ちなみに、秋葉原の「とらのあな」で購入したところ
設定画ミニ冊子がついてくるというオマケつき。
オマケがあるとは知らずに買ったので、ビックリした。
画像


以下、裏表紙の説明。

“えん罪により逮捕された少年ムオルは、人里離れた共同霊園に送られ墓穴を掘る毎日を送っていた。そんなある夜、自らを墓守りと名乗る少女メリアと出逢う。彼女に惹かれていくムオル。だが謎の子供カラスから、ムオルが掘っている墓穴は、人類の天敵・死なずの怪物“ザ・ダーク”を埋葬するものだと聞かされる!混乱するムオルは、さらにダークに殺されるメリアを目撃してしまい―!?”

掃き溜めに鶴、墓場に美少女のボーイミーツガール。
ボーイミーツガールの典型とも言える
「天使が空から降ってくる」といったイメージからすると、
敢えて正反対を選んだかのような、
ヒネたシチュエーションですが…
基本、純粋なボーイミーツガールです。
互いにとって運命的な相手を見つける、個人と個人の物語。
相応しいテーマソングは、これかな。

Original Love - 接吻
90年代の名曲。素晴らしくディープソウルボイス。


全体的に読みやすい文章ですし、
ラノベとして大事な部分として、ヒロイン・メリアも
「俺が守ってやらなきゃ!」と思えるキャラクター。
(と、いうか「俺しかいない!」ですね)
全体的に、演出を精査したと思しく
終盤の盛り上がる部分に対して、全てと言っていいくらい
前半のうちに1度触れておくことで
演出力が増すように、キッチリ組まれている。
ムオルが犬に噛まれる、という展開を挟むことで
それよりはるかに痛いであろう、「致命傷を負う」事へと
想像の翼を広げやすいようになっていたり。
ザ・ダークを墓穴に運ぶべく、直に触れた展開があった事で
そののち、不死身となる実を食べようと
手に取った時の同じ感覚で、「そういうものなんだ」と
理解できたり。
殆どの展開で、唐突さが感じられないように
意識付けを済ませておいているあたり、巧みだと思います。
というわけで、基本的には愉しかったのですが
…それなりに気になる部分もあったかな?
いや、欠点として指摘したいというより、特徴として。

・意図的?不足?釣りあわない『彼女』と『世界』

さて、形式的には「吸血鬼もの」をイメージしてしまうこの世界。
死なずの怪物「ザ・ダーク」を封じるために
その異形を身に取り込まされた少女、メリア。
特別な力によって不死となるが
陽の当たる所には出られず、孤独な彼女を救う為
オムルは自らザ・ダークを取り込み、共に生きる事を選ぶ。
…と、いう、わかりやすくいえば
「昼(社会・世界)を捨てて夜(彼女)を選ぶ」
形なのですが、興味深い部分として
『彼女』の対立軸が弱いな、というのがありました。

目的(脱走)の為に
手段(メリア)を利用するはずが
情も移り、目的と手段が逆転してしまう。

↑この選択を描く場合、本来は
「彼女」に対する「脱走」も強め
狭間での葛藤を描くものでしょう。
どちらも大事!と描いてこそ、片方を選ぶ事に
決断のカタルシスが乗る。
ところが、ムオルは口癖のように

「俺は脱走しなくちゃいけない」

と繰返すものの、では例えば
「なぜ?」とムオルに問いかけた場合
それに答えるに足る何かを、持ってはいないはず。
作中で問いかけるものがいない為、浮き彫りにはならず
「脱走」は最後まで「少女を守る」と綱引きをする形になっていますが
ここはどうにも不思議。
せいぜい、搾り出しても
「無実だから(えん罪だから)」という事になるでしょうが
それはイコール
「ここにいる理由がないから」
と言っているだけで、それでは
「いる理由があるなら、いてもいい」程度のものでしかない。
つまり「いる理由=メリアを守りたい」という目的が
墓場に留まる、という側に生まれた場合
そのモチベーションと綱引きをできるような、具体的な目的・意志が
「脱走」には何一つ付随していない。
だから、誰が読んでも、誰がそのシチュエーションにあっても
まあ、その選択をするだろうな、といいますか。
『彼女』を選ぶことに特別な力が乗らないのですね。

彼女と2人、墓場に篭るという選択を「ミクロ」とするなら
墓場を出る、という選択は
世界に出る行為「マクロ」となるのでしょうが
しかし、ムオルには何かを為そうという目的はない。
えん罪だから脱走する、といって脱走成功したところで
単に『脱走者』という正真正銘の罪がつき
隠れて生きる事になるだけ。
世界に出る意味が余りに乏しい。
ムオルの周辺情報も、同様のものを印象付けてくる為、
それらからは、世界への執着が殆ど感じられないのです。

夢で見る両親は、声も思い出せない。
兄貴たちとは、4年以上会っていない。

「ま、そんなもんさ。俺たちはもう大人だよ。いくら仲が良かろうがそうでなかろうが、どっちみち、兄弟はいつまでも同じ巣穴にはいられないんだ」

間違った発言と断じる事はできないでしょうが、
16歳の少年が抱く感情としては、あまりにクール。
そもそも、死別したわけでもないのに
親の声を思い出せない少年、という時点で
彼には、まるで家族への執着が存在しない。
作中に「仕送り」という単語が数回出てくるのも
良心との兼ね合いとして、仕送りさえしておけば
とりあえず事足りる、人間としてOKという言い訳じみていて
大変醒めています。
もう、家族との物語は終わっている。

回想で登場する軍隊時代も、名前が出るのは
えん罪の対象である、殺された上官のみで
名前のある同僚がいるという事もないし
地元に置いてきた幼馴染がいる、といった事もない。
(僕なら後付で作るけど!w)
つまり、墓場の外、世界に繋がりがまるでないのが
オムルという少年の描き方で。
そんな少年が、自分を唯一存在とまで思ってくれるような少女を
見捨てる理由が、まるで思いつきません。
世界を捨て、個人を選んだその行いが
非常に妥当に映り、ペナルティが存在しないこの不思議、
厳しい世界観のはずなのに、選択肢自体は
万人が見ても一択状態なので、ある意味
「優しい世界」にも映ります。
迷う理由もなく、捨てるものもないのだから。

そうは言っても墓場に篭るのだから、色々失うものはあるだろう?

まあ、確かに1つ所に閉じ込められるのは、
それだけで苦痛かもしれない。
けれどこの墓場暮らし、本当に至れり尽くせり。

ザ・ダークは人類の天敵で、その存在が文明の発達を妨げてきた

という事になっている為
(ご丁寧に、対抗手段を得てから100年で
人口が爆発的に増加した、というマクロな数字までついて)
ザ・ダークを埋葬するこの行為は、最高レベルで
人類の役に立っているのですよね。

…これって、どうなんでしょう?

世界を捨て、少女を選ぶ選択をしたはずが
その「少女を救う唯一の手段」がそのもの
もっとも人類=世界に役立つ行為になっている。


こういっちゃなんですが、強烈な一挙両得です。
世界に対する「仕送り」ってレベルじゃねーぞ!
「君の為に世界を裏切る」クラスの反英雄物語もある中で
(Fateの桜ルートとかね)
「君を選んだから世界の為になっている」というハッピーぶり。
得られるものばかりで、失うものがない。
無いというのも言いすぎかもしれませんが、得られるものが多すぎる。
苛烈な世界の割に、妙な甘さ、優しさを感じずにはいられません。
これが「シュガー」の正体なのか・・・
「陽の目を一生見られない」も、2人で力をわけもつ事で
「苦痛を感じはするが、日中も出られる」に変化。いいのか、これで。

唯一、設定の負荷として
「不死身といっても、痛覚がないわけではないので
ザ・ダークを封じるまでに、何度となく致命傷を負う」
という強烈な、想像を絶するペナルティは存在します。
死ぬ事はないが、その痛み・苦しみを感じ続けることは
精神の地獄であり、メリアの姉のような存在、マリアも
その苦しみに耐えられず、墓守を放棄し、自分を殺した。
精神の磨耗を2人の絆で堪える、という描き方をするのかもしれない。

…でもさあ。
確かに通常、人生で1度経験するかしないかの致命傷を
何十何百と味わうのは、想像を絶するけどさあ…

ここまで高次で
個人の幸福追求

人類の為という自己実現、社会的な充足の獲得
をともに達成できるなら、その程度、安いくらいに思いますが
どうなのでしょうね。
普通そこを両立しようと思ったら、とてつもなく
選ばれた人間だけが可能なような、茨道なのに
個人を追及したら、勝手についてくるんですよ?
僕なら望む所、上等ですけどね。

そんなわけで、『シュガーダーク』は
「地獄の苦しみと、
それを遥かに上回る至上の幸せを手にした
少年と少女の物語」です。
敢えて言うと、ハッピー好きにオススメ。
いや、作者的には
等価交換的に描いてるつもりかもしれないんだけど(笑)。

・余談。
ところで、ザ・ダークは繁殖能力がないらしく
絶対数が増加しない、という設定が語られていました。
もしも、今いるザ・ダークを全て埋葬し終えたとしたら
ムオルとメリアの、幸福すぎるミクロとマクロの一致は
終わりを迎える事になる(世界に望まれなくなる)のですが…
描かれるのでしょうか?
そもそも、それが普通の
「世界を捨てて個人を選んだ」者の物語なのですが、
一応意識に残しておきたいところですね。

この記事へのコメント

2010年01月14日 23:14
 興味深く読ませていただきました。
 批評の内容に納得することが多々あり、「仮にこの作品が金賞止まりだったら指摘されそうな点」ばかりだと思いました。
 私の場合は今ひとつキャラに移入できなかったんですが、その理由を提示された感じですね。
 ただライトノベルの新人作品にこれ以上を要求するのは少し酷かなとも思います。文章力でもろもろの欠点を帳消しにしている気がするので。実際話自体は楽しく読めましたから。
 それにこれにペケを出すとラノベには踏み込んでいけないのではwとも思います。
ルイ
2010年01月15日 19:54
空さん、コメントありがとうございます。
少し時が経ち、仰る事ももっともだなあと思っています。
当時は「ライトノベルの平均文章力」といったものを全く考慮せず(しようがなく)ただの小説、として評価していたのですが…その後数作読んでいくと「ただの小説として読めること」それ自体がひとつの評価だったのか、と考えを改めつつあります。PCのテキストゲームが根にあるかのような、ウィンドウ単位の纏め方や自己完結性の強い文体、会話劇にかなりの比重を預ける形…そういったものが多々ある中で、確かに『シュガーダーク』の文章には「描写で魅せる」という小説マナーがあったなと。「胡乱げ」好きなんだなあ、なんて些細な部分も印象に残ってますがw

あと、ペケを出したつもりは無いんですよ?選択の痛みを奪うのは、好みではないですけどね(笑)。この「逃がし」の入れ方こそがオリジナリティという気もしますし、文字通り「シュガー」で「ダーク」な、うまい落とし所だな、とも思っています。ハードすぎても、喜ぶのは僕みたいなマゾだけですから(笑)。

次巻以降も追いかけます。個人的な好みで言えば、ムオルの「世界」に対する執着の薄さは実は錯覚、若さゆえの無知だった。じつは両親家族の愛情含め、世界には彼を求める縁故が沢山あり(幼馴染美少女カモン!)「彼女」と「世界」の本格的な綱引きが始まる…というのが好みですね。マゾですね(笑)。なんにせよ、今後の舵取りで、一巻の優しいハード・ワールドがどれだけ計算づくだったのかがわかるかな、とも思っています。さすがに墓場に萌えキャラ大挙登場!ハーレム磁場形成!はないでしょうけど(笑)。

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